グラファイトとは漢字で黒鉛と書きますが、和名で正確には石墨といいます。
名前に「鉛」が含まれているのは、グラファイトの元素を分析する前は鉛が含まれていると考えられていたためです。元々はラテン語で(plumbago)と呼ばれており、英語では(black lead)と言われておりました。それを直訳して「黒鉛」とつきました。グラファイトという名前は元素が「C」(カーボン)だと判明した後に付けられた名前です。
では、炭素と黒鉛の違いを簡単に説明いたします。
炭素(=Carbon・カーボン)とは
原子番号6、元素記号「C」で表されます。石炭・石油・アスファルトのような炭素原子「C」と他の物質が結合した化合物として存在していたり、グラファイトやダイヤモンドのような、純粋な「C」原子の固まりとしてある物質の素と考えます。
原子「C」を構造の骨格の持つ化合物の総称を有機化合物(有機物)といいます。カーボンとは有機物(有機化合物)の礎となっている物質(元素)と考えてください。
しかし、立派な有機物でありながら、純粋な炭素原子の集合体である「グラファイト」や「ダイヤモンド」などの同素体、一酸化・二酸化炭素、金属炭酸塩(炭酸カルシウムなど)や金属シアン酸塩・金属チオシアン酸塩は原子「C」を構造の骨格に持ちながら無機化合物(無機物)とされています。それは、昔は「有機化合物は生体が産生する化学物質である」と定義されていたためで、生体が関与しない化合物として歴史上その定義の時点より前に発見されていた炭素化合物は無機化合物(無機物)とされたためです。
炭素化とは
炭素化合物である有機化合物(有機物)を、不活性雰囲気(例えば窒素やアルゴンなどのガス雰囲気)や、空気を密閉した状況で数百度~千度域で過熱する事により灰や炭になります。有機化合物(有機物)を加熱して、灰や炭に変化する事を炭素化といいます。
自然界では、大昔の恐竜や植物などが地中に埋もれ、空気を遮断された状態で地熱と地圧の影響を受けて、石炭や木炭に変わる物質の変化の過程を「炭素化」と言います。
人工的な方法で作る炭化物の判り易い例は、バーベキューなどに使う炭です。
炭は木を釜で空気に触れさせずに蒸し焼きにします。木が炭に変化する事を「炭素化」といいます。
数百度~千度域で「炭」となった有機化合物(有機物)、グラファイトの結晶構造やダイヤモンドの結晶構造をした小さな物質と他の物質(不純物)が含まれている状態です。こういった定まった一定の結晶構造でない物質を「無定形炭素」と呼びます。
有機化合物(有機物)のほとんどは、熱が加わる事により様々な種類の無定形炭素になります。例えば、原始時代の恐竜や木や生物から様々な資源ができています。石炭・コークス・木炭・煤(スス)のような固形(固相)の物や、ナフサ(ガソリン)、灯油、軽油、重油のような液体(液相)のもの、天然ガスのような気体(気相)もあります。
※物質の状態(固体、液体、気体)の三つの状態を「物質の三態(さんたい)や三相(さんそう)」とよばれます。
黒鉛化とは
炭を2,700~3,000℃程高い温度で空気を遮断した状態で熱を加えます。熱処理(熱を加える事)する事により、「C」原子の周りにある不純物を燃焼・気化させる事が出来ます。この高温で熱処理する事を「黒鉛化」といいます。
黒鉛化して作られた純粋な炭(規則的な配列をしている「C」原子の結晶体)をグラファイトといいます。グラファイトの原子の結合の形状は六角形の板状結晶。構造は、亀の甲状で層状物質となっております。
黒鉛(=graphite・グラファイト)とは
黒鉛化という高温熱処理をされる事により出来る、規則的な配列をしているカーボンの塊をいいます。自然界で、炭素化されたカーボンに、高温の熱を加え続けると「天然黒鉛」になります。一方、人の手で炭に高温熱処理を施し作られたグラファイトを、「人工黒鉛」と言います。
自然界でも人工的にでも、グラファイトにさらに熱と膨大な圧力をかけ続けるとダイヤモンドへ変化します。身につけている天然のダイヤモンドは、地中深くで熱処理され、地殻変動により地上付近に現れた貴重かつ神秘的なものなのです。
炭素質と黒鉛質の違い
炭素質とは、原子「C」のみで形成される結晶の発達の程度の低いものをいいます。黒鉛質と炭素質の大きな違いは、純粋な「C」原子の集合体の結晶の大きさが違います。
炭素質は、紙に筋を引いた場合紙を引き裂いてしまいます。それは、不純物が多く含まれている為で、硬い部分と柔らかい部分が入り混じって存在するためです。また、非常に硬く加工しにくく叩いた時は金属音がします。例えるなら、バーベキューに使う炭(備長炭)などです。
一方、黒鉛質とは鉛筆に似た滑らかさで、白い紙に黒い線を書く事が出来ます。言い換えれば滑りやすく、柔らかく、金属などの硬いもので引っかくと傷が入ります。ずばり鉛筆やシャープペンシルの芯は黒鉛です。
黒鉛質は「グラファイトの結晶構造」をご覧いただいても判るように、原子が横方向に結合しているシート状(グラフェン)であり、グラフェンが積層されて出来ています。その為、水平方向の力に弱く、紙に擦ると黒い線を引く事が出来るのです。また、炭素質に比べ黒鉛質は不純物が少なくなっているため、純度が高くなっております。
加えて、炭素質から黒鉛質へ結晶化が進む途中段階材料があります。よく炭素黒鉛質やセミグラファイトと呼ばれる材料です。セミグラファイトは、結晶化に進み具合で硬さが全く違います。例えば、材料を切断する際に火花が出る材料(炭素質に近く硬い物)や、黒鉛質に近く加工しやすい材料も有ります。
カーボンとグラファイトの違い
カーボンとは、カーボン原子(=C)が配合されていたりする材料や製品など広く使われています。一般に言われているカーボンで、自転車や車、釣竿に使われているカーボンといえば「CFRP」のことです。カメラ部品の掃除をする掃除用具や化粧品などで「カーボン配合」と記載があるものは、大体が「カーボンパウダー」や「カーボンブラック」の事になります。一般的なグラファイト製品といえば鉛筆の芯になります。
工業的なカーボンといえば黒鉛の事を指す事が多く、何かを作るための治具として使われたり、機械部品の一部として使われたり、工業製品の原料の一部として使われております。グラファイトとカーボンを使い分けられておられる方はあまりいらっしゃいません。
その為、カーボンといえば「炭素材料全般」のことで、グラファイトといえば「炭素材料の中でも黒鉛化されたもの」を表すというのが正しい使い方になるかと思います。
産業用途でのカーボンとは、主にグラファイトの事を指して言われます。